夜中の一時に目が覚める。二時に覚める。三時にも覚める。それでも翌朝には身体を起こし、愛犬のレスターと暗い道を歩く。雨上がりの地面を嫌がるレスターが何度も振り返る。帰ろう、と言いたげに。だが朝はやってくる。MACBOOKを開けば、やりたいことの山が待ち構えている。世界は止まってくれない。
六月というのは、妙に忙しい月だと思う。
仕事のマニュアルを土曜に仕上げ、社員に展開して月曜の返答を待つ。ディーラーに出したOCTAが戻ってきたと思えば、今度はドアハンドル近くのプロテクションフィルムが気になる。営業の「フィルムですからね」という気のない返事。代車で借りたレンジローバー スポーツPHEVを慣れた道で走らせながら、二千五百万円の車もメルセデスには二世代分の差があると感じた。それでもOCTAの重厚な佇まいは好きだ。人の好みというのは、合理性だけでは説明がつかない。
雨の日曜日、久しぶりに時間が余った。タイラバの仕掛けを作り、Netflixで映画を観た。ただそれだけのことが、ひどく贅沢に感じられた。
そして牛窓へ向かう。
六月十一日、七時四十五分、ニシナマリンより出航。
海の上では、ものを考える余裕がない。それが心地よい。ポイントに着いてしばらくするとボイルが立った。キャスティングロッドに持ち替えてナブラを撃つと、すぐにヒットした。鯖だった。タイラバとキャスティングを交互に持ち替え、水面が騒がしくなるたびにキャストを繰り返す。アコウが上がり、サビキに鯖が掛かり、やがてポイントを移動した。
次のポイントでも水面が騒がしい。チェイスしてくる魚影は小さく、鯖の幼魚かと思ってキャストを続けたがヒットしない。しばらくしてサビキに掛かったのは、良型の鯵だった。なるほど、あの水面の主は鯵だったか。気づくのが遅かったと思ったが、鯵の群れはあちこちを回遊している。気づいた瞬間から連発した。途中でアコウを一尾バラしたが一尾はキャッチし、アジは最終的に四十一匹。
十二時半を過ぎたところでストップフィッシング。まだ釣れそうだったが、さばく手間を考えればそれが潮時というものだ。
帰港して魚の処理をし、帰宅してから四十一匹のアジの下処理に取り掛かる。流石にこれは大変だった。夕食は焼きそばをさっと作り、あとは動画編集。気づけば深夜零時。眠ることにした。
最近、短い睡眠でも朝に起きられる。身体は疲れているのに、目は覚める。仕事に集中して眠れない夜が続いたことが、いつの間にか身体を鍛えたのかもしれない。あるいはレスターとの朝のルーティーンが、体内時計を整えているのか。
どちらでもいい。
眠れない夜も、ナブラを読み違えた午前も、気のない返事をよこすディーラーも、全部ひっくるめてこの日々だ。海は正直で、魚は嘘をつかない。投げ続ければ、いつか掛かる。それだけのことを、波の上で何度でも確かめる。